ちょっとした余生

20代を全力疾走したせいで 今はちょっとした余生のよう

8年ぶりの歯医者

 

日曜のお昼、海老ピラフを食べていたらガリって音がした。

アサリでも入っているならまだしも、海鮮は海老だけ。音がするものはない。

吐き出すと、銀の詰め物が出てきた。奥歯の詰め物だ。

 

 

遡ること8年前。奥歯のさらに奥が痛くてしょうがなかった。親知らずだ。そう確信して歯医者の門を叩いた。

小学1年生のときに前歯がなかなか抜けずに診療してもらって以来15年、歯科検診でも、キミ乳歯があるね~と笑われるだけで全く問題がないまま歯医者のお世話になることなく成人した。ちなみに乳歯が永久歯に生え変わらないというのは10人に1人の割合で起こることらしいのであまり珍しくはない。

 

そんなわけで決まったかかりつけの歯科医院もないので、当時勤めていた会社の1番近くにある歯医者へ向かった。親知らずかぁ、恐ろしい。

診察してもらうと、親知らずではなく歯肉が腫れていて奥歯に当たっているのが痛みの原因だったようで、歯肉を切ってもらう処置をしてもらった。親知らずではなかったことと、レントゲンで見る限り手術に難があると聞く横向きの親知らずにもなっておらず、まっすぐ生えて控えていることがわかり一安心していたら、先生は衝撃的な一言をお見舞いしてくれた。「それはそうと、虫歯が5本あるから治療しましょうね。」

そんなまさか、虫歯って痛いんじゃないの?21年生きてきて今更5本一気に???私は動揺した。

虫歯はキスでうつるという話を聞いたことがあった。該当する顔が思い浮かんだ。とんだとばっちりだが、他に理由がない。

その時、5本の虫歯治療に大金を払うことになり、歯医者独特の料金設定に泣きそうになった。そして白い詰め物にさらに高いお金を出すのが嫌で銀の詰め物をしたのだ。

推しがいなければ全財産自分にBETするが、私には推しがいるから自分の奥歯なんか銀でもいい、ギンギラギンにさりげなく奥の方で輝いていればいいと思った。

 

それが8年の時を経て1つ、取れたのだ。海老ピラフで。納得がいかないが、鏡で奥歯を見るとそれなりの穴が開いていた。こんなご時世に歯科医院、なんてタイミングなんだと思ったものの、詰め物が取れたら早く診てもらうべきという意見に従って翌日仕事の前に歯科医院の門を叩くことにした。時差出勤で良かった。

当時とは勤務場所が変わっていることと、前回通っていたところは予約マストだということもあり、また新たに歯科医院を現在の勤務地近くで検索する。個室、予約制ではないのでいつ行っても診てもらえる安心感、そして口コミの良さで1件に絞り、そこへ診療開始時間に1番乗りで受診した。

 

早速事情を説明して、歯科衛生士さんに診てもらう。この歯科医院には衛生士さんが沢山いるようで、各個室でそれぞれ衛生士さんが出来る処置をして、順番に先生が回ってくるシステムらしい。

レントゲンを撮ったり、下の歯の歯石を取ってもらったり、ブラシで磨いてもらったり、至れり尽くせりしてもらった後、衛生士さんに「麻酔はどうされますか?」と聞かれた。

私はこの後仕事に支障が出るようならしませんよ、という厚意での言葉かと思って「お願いします」と麻酔をお願いした。使ってもらって問題ないですよと。

するとしばらくして、明るそうな手練れの女性歯科医と助手が入って来て麻酔の準備を始めた。

そして三人で私の頭の周りを取り囲む。女性歯科医が優しく優しく声を掛けてくれた。

「最初にチクっとするんですけど、大丈夫ですからね~!どうしても痛かったら言ってくださいね!いきますよ~」助手が私の肩をさする。

アレ?これアレだな、痛みにすこぶる弱い人間励ますときのテンションだな?

ちなみに私は痛みに強いほうだ。小学生時代に入院した弟と面会するためにお尻にぶっとい注射を2発打つことになったときも、痛みで泣き叫ぶので外へ出ていてくださいと言われて付き添いの母が追い出されるほどの注射で私がちっとも泣かなかったため、医者に相当肝がすわっている、すごい大人になるぞと言わしめたくらい痛みに強い。

だから麻酔の針が歯茎を刺したところでピクリともならないのだが、女性歯科医はそんな私に「すごいですよ~!男性は結構この針でも痛がるんですよ~!もう少しですから頑張ってくださいね~!」と褒めながら励ましてくれた。

後から母や彼に聞いた話だと、今回の治療内容だと麻酔なしが通常らしい。私の歯科経験が浅すぎるあまり、軽率に麻酔をお願いしたら痛みに怯える女性として手厚い処置が施されてしまった。

 

詰め物が取れた歯は虫歯が少し出来ていて、削る必要があった。大事に持ってきた詰め物も使えず作り直し。レントゲンからその後ろの詰め物の下も虫歯があることがわかったので、次回治療しましょうということになった。

おいおい、通うことになっとるやんけ。わたし的には、コレ取れちゃいました→つけて元通りです。で終わる予定だったのに、まさかの治療。ショックだった。

歯は毎朝毎晩磨いている。前回の歯医者通いで歯磨き指導もあったが、完璧ですとまで言われたくらいの腕前だ。でも詰め物の下は磨けない。こんな不本意な虫歯があるのかと思った。

 

治療の最中にも、麻酔は効いてますか?痛かったら追加しますから言ってくださいね!となにかと気にかけてもらった。最後に先生が削ったときは鈍い痛みが走ったが、耐えれる痛みだったし、何よりもう唇に感覚がなさ過ぎて追加は遠慮した。

やたらとうがいをするのが治療につきものであるとは知っていたが、唇に感覚がなさ過ぎてだんだんうがいが困難になってくる。

型取りの際に唇にピンクのねっとりしたアレがついてしまったのだが、これが感覚がないとなかなか取れない。見かねた衛生士さんが「お口あとで拭きますね」と言ってくれた。そして濡らしたコットンで丁寧に拭いてくれた。気分はベイビーちゃん。

人に1時間ほど手厚く優しくされると、羞恥心などなくなるということをこの身をもって知った。

 

そして治療が終わり、詰め物の仕上がり日を聞いて個室を出た。

お会計は4,000円を超えていた。泣いた。次回は若干安くなるのだろうか?

 

今回の治療が終わったら、定期的に検査や歯石取りをしてもらおうと心に誓った。

普通に受診したらいいのかな? 定期的にやっている人がいたら教えてほしい。

 

9時すぎにかけた麻酔が13時になっても取れず、恐る恐るお昼ご飯を食べたら、味噌汁を口に含んだ瞬間ピュッと味噌汁が飛び出てきた。お口元がベイビーちゃんのままである。午前中は感覚のある左半分の唇を使ってお茶をストローで飲んでいた。

14時には麻酔が取れたので、5時間といったところか。

次回の治療はどのくらいの痛みなんだろうか。今度は仕事終わりに行く予定だから晩御飯前だし、通常麻酔がいらない治療ならもちろん私にも必要ないのだが、それを聞くとまた痛みに怯えて麻酔を希望していると思われて手厚い処置を施されそうだ。

 

私が歯科医に慣れるまでは時間がかかる。そう実感した。