左投げ右打ち
私は元々左利きの人間だったりする。
今でこそ珍しくないが、私が子供の頃はまだちょっと左利きタブーな風潮が残っていたらしい。
母が習字を習わせたかったのと、お堅い幼稚園に通っていたこともあり、文字を書くのは右に矯正されたものの、食べるのはスプーンですら右で使えなかったため左で食べている。
あとはハサミやカッター、咄嗟にでるのも左手だが、だいたいのことは右でやる癖がついているため、そのおかげで今はお昼休みにマウスを操作しながらお昼ご飯が食べれるなど行儀は悪いが便利な暮らしもしている。
運動音痴のため習い事でスポーツはしてこなかったものの、体育の授業も右利きの人々と同じように右でやっていた。
一緒にお昼を食べていて左利きのイメージを強く持っている友達は、ソフトボールの授業なんかでよかれと数少ない左投げ用のグローブを確保してくれたもんだが、期待を裏切って右投げだったし、遊びの延長でバッティングセンターに行ったときも端の方へ走って行って左打ちあいてるよ!って言われては、すまんな右打ちなんだよなんて言っていた。
右打ちか否かは、左打ちかもしれないと思って試した時にてんでダメだったので確定している。
それがびっくり、タイトルにある通り、私は左投げ右打ちだということがこの度発覚したのである。
私の彼氏は趣味でソフトボールのチームに入っている。
私は母が運動音痴でそれを引き継いだためあまり運動に良いイメージをもっていなかったものの、父が野球だけで高校・大学へいった経歴があるため、弟や父とキャッチボールをした経験はあった。そしてこのコロナである。やることがないからキャッチボールでもしようという話になった。彼の予備のグローブを借りて、いざキャッチボール。
彼も私自身も、私のキャッチボール力に期待してなどいなかった。なのに、なんか結構ちゃんと出来てしまったのだ。彼がいたずら心でフライボールを投げると、なぜか私は落下位置がわかって取れてしまう。これには彼も驚きのあまり笑っていた。
ただ、走力がGなので、落下位置まで走る姿はかなり変だというのが自分でもわかる。
私の住む県には野球チームが存在することもあり、野球観戦も私の趣味だが、確かにファウルボールとホームランも見分けがつくので、ちょっと飛距離のあるファウルボールに沸き立つ人々との温度差を感じることはあったものの、まさか運動音痴だと思っていた自分に球の行き先を読む力があるとは毛頭思っていなかったのだ。
そんなこんなで何回目かのキャッチボールの日、試しに左で投げてみようという展開になった。お互いの変な投げ方見て笑おうぜといったところだ。
最初は彼が投げて、その右とは全く違うぎこちないフォームに笑った。
そして私の番。左で投げた。なぜか今までよりしっくりきた。彼も見てそう思ったらしい。あれ、こいつ左投げじゃね?という空気がお互いの間に流れた。
それからこの日はずっと私が左で投げる練習をする時間になった。
今まで投げる時の腕の動きや下半身の動かし方などアドバイスしてもらったことが、頭ではわかっても出来なかったのに左なら割とできる。思った通りに体が動くのだ。
運動音痴の人にはわかってもらえると思うのだが、運動音痴は頭と体が全く別回路になっている。この回路がつながった時のスッキリ感というのは凄まじい。
ちょっと休憩しようと座ったとき、彼が「正直右投げのときのフォームはキモかったけど、左はマジでいい!それっぽい!」と褒めてくれた。
今までキモかったんか・・・キモいてはじめて言ったねアンタ・・・と思ったものの、褒められたことは素直に嬉しく思った。
今まで頑なに右でいろんな競技をしてきたが、左でやっていたら何か開花したのだろうか。
「あなたはママに似て運動音痴だから」という言葉に縛られていただけで、本当は何かすごく向いているスポーツがあったんじゃないかと思うものの、もうアラサー、目覚めても遅すぎるのだ。
そんなわけで、自分が左投げ右打ちというド変態だということがわかったものの、彼の持っているグローブはもちろん全て右投げ用のため、私は今グローブがない。
購入しようにも自粛期間でスポーツ用品店は軒並み閉店しているし、GW中のネット購入は営業日発送のため意味がない。
なによりグローブも決して安い買い物ではない。左投げのグローブを買って、やるのは彼とのキャッチボールだけである。あまりにコスパが悪いのではないかという雑念もわいてくる。
でも体を動かす機会が増えるのは良い事なので、キャッチボールという新たな趣味を潰してしまうのはいかがなものか。
どこかチームに入ればいいのだろうか。女子野球チームとか女子ソフトチーム?
競技未経験、打率は磨けばそこそこ、走力Gだが、入れるところがあれば教えて欲しい。