ちょっとした余生

20代を全力疾走したせいで 今はちょっとした余生のよう

料理は誰が作るかで味が変わる

 

私は友達が少ない。

己の人格に問題があるのは小学生時代から自覚しているが、どこに問題があるのかまでは深く掘り下げて考えたことがないので友達が少ない現実だけを受け止めて生きている。

私に愛想をつかして疎遠になった人には「私もあなたに思うことはあったがそれも個性と思って受け入れていたよ、でもあなたは許容範囲を超えたんだね。どうか私の見えないところで幸せになってね。見えないところでね。」と思うようにしている。

それもあって私の交友関係はとても簡潔で、親友か知り合いかの2つに分類されるのみだ。推し関係で知り合ったとか、クラスメイトだった人なんかは知り合いに振り分けられる。

そんな希薄な関係でもSNSのフォローはし合っているので、色々な人の生活を垣間見る日々を送っている。

 

結婚適齢期をとうに過ぎた私の周りは、8割既婚子持ちだ。

話は逸れるが、私の周りでは18歳から今まで3度の結婚ブームがあった。

親友から知り合いまで招待状が来れば結婚式に行ったし、親友には必ず出産祝いを送ったりしている。

私は25歳以降の結婚になるなら結婚式はしないと決めていたし、数年前まではむしろ完全に独身でいるつもりだったので、ご祝儀を払った人たちには「65歳で定年退職したときにご祝儀と同じ額を御祝で払ってくれ。税金払ってくれてありがとうって意味で。」と伝えている。

 

そんな既婚者の方々からよく出てくるワードが「他人が作ったご飯が食べたい」だった。

コロナで子供が保育園・小学校に行けなくなり、三食作ることになってしまってからはよりその声が強まっていたように思う。

手間がかかるし、日々のタスクに昼食作りが加わるのは大変だと思う。子供相手なら尚更、簡単に済ませようと思っても毎日となると栄養面も考えてしまうだろう。

それが辛くて他人が作ったご飯が食べたくなっているんだろうなと独身実家暮らしの私は思っていた。

 

だが、どうやらその考えは違うかもしれないと思い始めた。

 

というのも、ゴールデンウィークを過ぎて以降、私は晩御飯を作るようになった。

秋からは家を出るので、家事スキルを身につけておかないと自分が困ると思ったのだ。

なんといっても節約の要は食費。食費を抑えるには今のうちから料理出来るようになったほうが良い。

それから毎晩、私は母に色々なテクニックや知識を教わりながら晩御飯を作っている。

始めたばかりの頃、母が「こうやって、台所で娘と2人並んで料理するのが夢だったんだ・・・」と心底嬉しそうにつぶやいた。その夢聞いたことない、言えなかったんだろうな。とてつもなく申し訳ない。お待たせしましたといった気持ちになった。

 

そんな日々ももうすぐ1ヶ月経つ。まだ毎日の献立は買い物を担当する母に考えてもらっているが、レパートリーも増えたし、最終的には食材の買い物や朝早起きしてお弁当も作れるようになりたいと思うのだが、既に母が作ってくれるお弁当に前の日の晩に作ったおかずが入ったりしている。

今までは、前の日のおかずが入ることなんて当たり前だと思っていたし、毎日同じおかずでも良いと思うほどお弁当に無頓着だったのだが、最近なんだかモヤモヤする。

ある日、お弁当の蓋を開けた瞬間、突然このモヤモヤがある言葉に変わった。

「あぁ、他人が作ったご飯が食べたい」

まだ1ヶ月のペーペーなのに、他人が作ったご飯が恋しくなったのだ。

蓋を開けて、昨日作ったおかずかぁ・・・とがっかりしているのだ。

 

決してマズいわけではない。味付けだって母に教えてもらって味見もしてもらっているのだから、今までと何ら変わりのないものなのに、無性に他の人が作ったおかずが恋しくなった。

これか、彼女たちが言っているのはこうゆうことだったのか?

いや、彼女たちと私では事の深刻さが違う、でも意味はなんとなくわかったのだ。

 

まったく同じ味の料理でも、手間をかけたのが誰なのかによって、美味しさと楽しみ方が違う。

母はこんなシラけた思いをしながら長い間毎日ご飯にお弁当に作ってくれていたのか。

そして、同世代にもこんな思いをしながら料理をしている人たちがいるのか。

考えれば考えるほど、今まで私がどんなに幸せだったかを思い知る。おおげさかもしれないが、これから先自分がご飯を作り続けなければいけない現実に少し絶望した。

 

ただ、この1ヶ月料理をしてみて苦手だったわけでもセンスがなかったわけでもない。

そこが救いだ。それでも面倒なことに変わりはないのだけれど。

出来れば私は洗濯だけ担当したい。そうはいかない。どう考えても早出も残業もない私が料理を請け負ったほうが無駄がない。

 

料理は誰が作ったものなのかによって、味が変わる。

月に一度は彼に料理を作ってもらう日を設けようと思う。でなければ私は早々に実家に帰ってしまうかもしれない。